数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第19章
「軌跡」と「通過領域」は、教科書では別々の単元として並んでいます。でも、この2つはまったく同じ問題です。どちらも「条件を満たす点を全部集めよ」と言っているだけ。つまり第1章の真理集合そのものです。前章の逆像法を、そのまま図形に適用します。
軌跡とは、真理集合のことである
藤原です。第19章です。
「軌跡」という言葉には、点が動いていくイメージがあります。でも数学的な中身は、もっと静かです。
軌跡とは、ある条件を満たす点を全部集めた集合である。
つまり、第1章でやった真理集合そのもの。動いているのは、私たちの視線だけです。
だから、軌跡を求める手順も第1章から変わりません。
【軌跡を求める手順】
① 求める点を とおく
② 与えられた条件を、 と の式に翻訳する
③ その式が表す図形を答える(範囲の制限も忘れずに)
①がいちばん大事です。「求めたいものに、まず名前をつける」。これだけで、多くの軌跡問題は動き出します。
1つやってみましょう。
例題1 2点 、 からの距離の比が である点の軌跡を求めよ。
求める点を とおきます。条件は 、つまり
両辺とも0以上なので、2乗しても同値です(第6章)。
答え:中心 、半径 の円
2定点からの距離の比が一定( 以外)である点の軌跡は、必ず円になります。これをアポロニウスの円といいます。
ここで「両辺が0以上だから2乗しても同値」と一言書けるかどうかが、第6章を読んだ人と読んでいない人の差です。この一言があるから、最後に「逆に確かめる」作業が要らなくなります。
パラメータを消すとき、範囲は消えない
次は、点がパラメータで表されている場合です。
例題2 実数 が の範囲を動くとき、点 の軌跡を求めよ。
、 です。 を消したいので、第1式から 。これを第2式に入れて
これで終わり……ではありません。 の範囲を忘れています。
で、 なので
答え:放物線 の の部分
パラメータを消すと、範囲の情報が「見えなくなる」だけで、消えたわけではありません。
第7章で「文字を消しても条件は生き残る」と言いました。まったく同じ話です。消去したら、必ず範囲を追いかける。軌跡問題での最大の失点原因がこれです。
通過領域は、逆像法そのもの
ここからが本題です。
例題3 実数 が全体を動くとき、直線 が通過する領域を求めよ。
「通過する」とは、どういうことでしょうか。点 が通過されるとは──
点 が通過される ⟺ その点を通るような が存在する
「存在する」が出ました。逆像法の出番です。
ここで発想の転換をします。 を止めて、 を未知数として見るのです。
これは についての2次方程式。実数解 が存在する条件は
答え: の表す領域(放物線 とその下側)
【通過領域を求める手順】
① 点を とおいて固定する
② パラメータについての方程式と見て整理する
③ その方程式が「指定された範囲に解をもつ」条件を求める
②の「主役の入れ替え」が、この分野最大の山です。いつもは が主役で が脇役。それをひっくり返して、 を主役にする。ここができれば、通過領域は怖くありません。
パラメータに範囲があると、難易度が上がる
入試で差がつくのは、こちらです。
例題4 が の範囲を動くとき、直線 が通過する領域を求めよ。
さっきと同じく を の方程式と見ますが、今度は「 の範囲に解があるか」を調べなければなりません。判別式だけでは足りない。
こういうときは、定数分離が有効です。式を について解いてみます。
を止めると、これは の2次関数(上に凸、軸 )です。 を動かしたときに が取りうる値の範囲が、そのまま答えの縦方向の範囲になります。
軸の位置で場合分けします。
(i) のとき:軸が区間の左外。区間で減少するので、 で最大 、 で最小 。よって 。
(ii) のとき:軸が区間内。 で最大 。最小は区間の端のうち軸から遠いほうで、 なら 、 なら 。小さいほうが最小です。
- :軸が左寄りなので のほうが遠い。最小は 。よって
- : のほうが遠い。最小は 。よって
(iii) のとき:軸が区間の右外。区間で増加するので、 で最大 、 で最小 。よって 。
これを図示すると、次のようになります。
答え
- では
- では
- では
- では
境界に現れた (放物線)、( の直線)、( の直線)の3つは、それぞれ意味があります。放物線は「軸が区間内にあるときの最大値」、2直線は「端点 の直線そのもの」。境界がどこから来たのかを説明できると、答案の説得力が段違いになります。
「すべての 」と「ある 」を、絶対に混同しない
ここで第3章に戻ります。
通過領域:ある が存在して、その点を通る
定点通過:すべての について、その点を通る
言葉が1つ違うだけで、まったく別の問題になります。
例題5 の値によらず、直線 が必ず通る定点を求めよ。
「 の値によらず」=「すべての について成り立つ」。 について整理します。
これがすべての について成り立つ。第4章の例題でやったとおり、 についての恒等式なので、係数がすべて0でなければなりません。
答え:定点
もし同じ直線で「通過領域」を聞かれたら、答えはまったく違います。 より、 なら と解けるので、そのような は必ず存在します。 のときは が必要。
したがって通過領域は「 の部分すべて、および点 」、つまり直線 から点 を除いた部分以外の全平面になります。
「すべての」は係数を0にする(恒等式)。「ある」は存在条件を書く(判別式・値域)。
第3章で「すべて」と「ある」の非対称性をやった意味が、ここで完全に回収されます。問題文の「〜の値によらず」「〜が動くとき」を、必ず区別して読んでください。
【原理】この章の芯
① 軌跡とは、条件を満たす点の集合=真理集合。
② 求める点にまず と名前をつける。
③ パラメータを消しても、範囲の情報は消えない。必ず追いかける。
④ 通過領域は「そのパラメータが存在するか」=逆像法。
⑤ 主役を入れ替える。 を固定し、パラメータを未知数と見る。
⑥ 「すべての 」は恒等式、「ある 」は存在条件。混同しない。
オリジナル問題で確かめる
問題1(アポロニウスの円)
2点 、 からの距離の比が である点 の軌跡を求めよ。
問題2(中点の軌跡)
点 と、円 上を動く点 がある。線分 の中点 の軌跡を求めよ。
問題3(パラメータ消去・範囲つき)
実数 が を動くとき、点 の軌跡を求めよ。
問題4(三角関数のパラメータ)
が を動くとき、点 の軌跡を求めよ。
問題5(定点通過)
の値によらず、直線 が必ず通る定点を求めよ。
問題6(通過領域・パラメータ全体)
実数 が全体を動くとき、直線 が通過する領域を求め、図示せよ。
問題7(通過領域・範囲つき)
実数 が を動くとき、点 を通り傾き の直線が通過する領域を求めよ。
問題8(円の通過領域)
実数 が全体を動くとき、円 が通過する領域を求めよ。
問題9(すべて と ある の対比)
直線 について、次に答えよ。
- の値によらず が通る定点を求めよ。
- が実数全体を動くとき、 が通過する領域を求めよ。
- (1) と (2) の答えが違う理由を、「すべての」「ある」という言葉を使って説明せよ。
解答と解説
問題1の解答
とおくと より
答え:中心 、半径 の円
検算:この円は 軸と と で交わります。 では 、 で比は ○ では 、 で ○
問題2の解答
中点を 、動く点を とおきます。中点の公式から
これを について解くと
は円 上にあるので 。代入して
答え:中心 、半径 の円
この手順が「軌跡の王道」です。①求める点を とおく ②動く点を別の文字 でおく ③ を で表す ④ が満たす条件式に代入する。
この4ステップは、ほぼすべての軌跡問題で機械的に使えます。
問題3の解答
、 より 。代入して
範囲は、 より は
答え:放物線 の の部分
問題4の解答
、 より
ここで を使います(三角関数のパラメータを消す常套手段)。
は から まで動くので、円を1周します。したがって円全体が軌跡です。
答え:中心 、半径 の円
問題5の解答
「 の値によらず」なので、 について整理して恒等式にします。
これがすべての で成り立つので
連立して解きます。第2式より 。第1式に代入して 、、。
答え:定点
検算: のとき → ○ のとき → ○
問題6の解答
点 が通過されるのは、 を満たす実数 が存在するとき。 について整理します。
の2次方程式なので、実数解をもつ条件は
答え:放物線 とその下側(境界を含む)
問題7の解答
点 を通り傾き の直線は
点 が通過されるのは、この式を満たす が の範囲に存在するとき。
について整理すると
ここで定数分離します。 なので、 が の における値域に入ることが条件です。
では、 で最小値 、 で最大値 。よって値域は 。
したがって条件は
答え:、すなわち2直線 と に挟まれた帯状の領域(境界を含む)
検算: のときの直線は 、 のときは 。 のときは 。たしかに と が境界になっています。
パラメータを片側に集められるときは、定数分離が最短です。判別式で場合分けするより、値域を1回求めるほうがずっと速い。「パラメータだけの式にできないか」を、まず考えてください。
問題8の解答
点 が通過されるのは、 を満たす実数 が存在するとき。 について整理します。
左辺は を動かすと 以上のすべての値を取ります( で 、 を遠ざければいくらでも大きくなる)。したがって、この等式を満たす が存在する条件は、右辺が0以上であること。
答え: の表す帯状の領域(境界を含む)
意味を考えましょう。半径1の円を左右に平行移動していくのだから、通る場所は「高さが から までの横帯」。図で考えても、まったく同じ答えになります。計算と直感が一致したときは、自信を持って書いてよいサインです。
問題9の解答
(1) について整理します。
すべての で成り立つには、 かつ 。
答え:定点
(2) 点 が通過されるのは、 を満たす が存在するとき。
- のとき: と決まるので、必ず存在する。よってこの範囲の点はすべて通過される。
- のとき:式は となり、 は消えてしまう。 なら(どんな でも)成り立つので通過される。 なら、どんな を持ってきても成り立たないので通過されない。
答え:直線 上の点 以外の点を除いた、平面全体
言い換えれば「平面全体から、直線 上の 以外の点を取り除いたもの」です。
(3) (1) は「すべての について通る点」を聞いています。これは非常に厳しい条件なので、答えは1点だけになりました。
(2) は「ある について通る点」を聞いています。こちらは1つでも が見つかればよいので、非常にゆるい条件。だからほとんど平面全体になりました。
第3章でやったとおり、「すべて」は厳しく、「ある」はゆるい。この非対称性が、そのまま答えの広さの違いになって現れています。
この直線は点 を通る傾き の直線の族です。傾きを自由に変えれば、 を通る直線でほぼ全平面を覆える。ただし縦線 だけは の形では表せない。だから 上の点が抜け落ちる。図で考えると、答えが腑に落ちます。
よくある誤解
誤解1:パラメータを消したら終わりだと思う
範囲を追いかけてください。「放物線の一部」なのに「放物線」と答えると減点されます。
誤解2:通過領域で を未知数のまま考える
を固定して、パラメータを未知数と見るのが逆像法です。主役の入れ替えを忘れないでください。
誤解3:「 の値によらず」を通過領域だと思う
「〜によらず」はすべての 。恒等式です。「 が動くとき」がある 。存在条件です。
誤解4: の形の直線族が全直線を表すと思う
この形では縦線が表せません。問題9でその穴が答えに効きました。傾きで直線を表すときは、常にこの落とし穴を意識してください。
よくある質問
Q. 軌跡の答案で「逆に、この図形上の点はすべて条件を満たす」と書く必要がありますか?
同値変形で進めたなら不要です。第5章でやったとおり、 でつないでいれば逆も自動的に成り立ちます。ただし、途中で2乗するなど一方通行の変形をしたなら、必要になります。「両辺0以上なので2乗しても同値」と書いておけば、この作業が省けます。
Q. 通過領域は、判別式と定数分離のどちらを使うべきですか?
パラメータの範囲に制限がなければ判別式(速い)、制限があれば定数分離か、範囲つきの解の配置。判断基準は「パラメータが自由に動けるか」です。
Q. 通過領域の図示が苦手です。
境界の曲線・直線を先に全部描いてから、テスト点を1つ代入してどちら側かを決めてください(第2章の方法です)。また、パラメータの端の値( や )に対応する図形は必ず境界に現れるので、それを先に描いておくと当たりがつきます。
次の章へ
図形と存在条件の話が終わりました。次の第20章からは、少し目線を変えて「式の構造」を見ます。多項式の割り算、因数定理、そして剰余。「なぜ なら で割り切れるのか」を、割り算の意味に戻って説明します。
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