数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第20章
「 ならば は で割り切れる」。この因数定理を、公式として暗記していませんか。この章では、小学校でやった「あまりのあるわり算」に戻って、なぜそうなるのかを説明します。そして、多項式の割り算でいちばん大事な「余りの次数」という一点を、徹底的に使い倒します。
まずは整数の割り算を思い出す
藤原です。第20章です。
小学生のとき、 は「商が3、あまりが2」と習いました。これを式で書くと
ここで、大事なルールがありました。あまりは、割る数より小さくないといけない。もし「商が2、あまりが7」と答えたら、 は正しい式ですが、「あまり7」は割る数5より大きいので不正解です。まだ割れるからです。
割り算の本体は「あまりの大きさの制限」にある。
制限があるから、商とあまりがただ1組に決まる。
多項式でも、まったく同じことをします。ただし「大きさ」の代わりに「次数」で測ります。
多項式 を ( は でない)で割ると
と書ける。ここで の次数は の次数より小さい(または )。
このような はただ1組に決まる。
この「余りの次数が小さい」というルールが、この章のすべてです。
余りの次数を決めれば、余りが求まる
ここが実戦での最重要ポイントです。
- 1次式で割る → 余りは0次(定数)。 とおける
- 2次式で割る → 余りは1次以下。 とおける
- 3次式で割る → 余りは2次以下。 とおける
つまり、余りの形は最初から決まっている。あとは未知の係数を決めるだけです。第4章でやった「必要条件で絞ってから確かめる」の、いちばん素直な応用です。
剰余の定理は、代入するだけ
を で割った余りを求めます。割る式が1次なので、余りは定数。 とおくと
この式はすべての について成り立つ恒等式です。だから、好きな値を代入していい。第4章でやったとおり、いちばん都合のいい値を選びます。
を入れると、 の部分が消えて
【剰余の定理】 を で割った余りは
そして、余りが0のとき、つまり のときは となり、 が因数になります。逆に が因数なら を代入して 。
【因数定理】 は を因数にもつ
証明は3行でした。「余りが定数だから、 を代入すれば消える」。これだけです。
2次式で割った余りを、代入だけで出す
剰余の定理の考え方を、そのまま広げます。
例題1 多項式 を で割ると余りが 、 で割ると余りが であるという。 を で割った余りを求めよ。
割る式が2次なので、余りは1次以下。そこで とおきます。
これも恒等式なので、都合のいい値を代入します。 と を入れれば、前の項が消えてくれます。
- :。条件より なので
- :。条件より なので
辺々引いて 、よって 。
答え:
手順はいつも同じです。
① 割る式の次数を見て、余りの形をおく
② 恒等式に、割る式が0になる値を代入する
③ 連立方程式を解く
の中身がまったく分からなくても余りが求まる、というのが気持ちいいところです。「割る式が0になる値」を代入するのがコツ。
代入だけでは足りない場合──重なった因数
次はレベルを上げます。
例題2 を で割った余りを求めよ。
割る式が2次なので、余りは とおけます。
を代入すると 。……これで式が1本しか出ません。代入できる値が しかないからです。
どうするか。方法は2つあります。
方法1: と置き換える
とすると、 です。左辺は
(第16章の二項定理です。) で割った余りは、 について1次以下の部分、つまり
に戻して
答え:
方法2:両辺を微分する
恒等式は微分しても恒等式です。両辺を で微分すると
ここで を代入すると、右辺の前の2項が消えて
これと から 。同じ答えになりました。
で割った余りを求めるときは、「代入」と「微分してから代入」の2本立て。
この「微分してから代入」という技は、次の第21章で「接する」の条件としてもう一度出てきます。じつは同じ話です。
高次方程式は、因数定理で1つ見つけるところから
3次以上の方程式を解くときの定石も、因数定理です。
例題3 方程式 を解け。
まず、解を1つ「見つけ」ます。当てずっぽうではなく、探す範囲があります。
最高次の係数が で、係数がすべて整数のとき、整数解があるとすれば、それは定数項の約数。
理由も分かります。 に整数 が解として入るとすると と変形でき、 は を割り切らなければなりません。
だから候補は 。順に試します。
- : → 当たり!
因数定理より で割り切れます。実際に割ると
答え:
「解を探す」ときは、必ず から試してください。入試問題では や が解になるように作られていることが圧倒的に多い。実際、 が解になるのは「係数の総和が0」のとき、 が解になるのは「偶数次の係数の和と奇数次の係数の和が等しい」とき。暗算で確認できます。
【原理】この章の芯
① 割り算の本体は「余りの次数は割る式より小さい」というルール。
② だから余りの形は最初から決まっている。係数を決めるだけ。
③ 剰余の定理は「割る式が0になる値を代入する」だけ。
④ 因数定理は、余りが0の場合を言い換えただけ。
⑤ 重なった因数 では、微分してから代入する。
⑥ 高次方程式は、定数項の約数から解を探す。まず 。
オリジナル問題で確かめる
問題1(割り算の実行)
を で割った商と余りを求めよ。
問題2(剰余の定理)
を で割った余りが であるとき、定数 の値を求めよ。
問題3(2次式で割った余り)
多項式 を で割ると余りが 、 で割ると余りが であるという。 を で割った余りを求めよ。
問題4(3次式で割った余り)
多項式 について、、、 であるという。 を で割った余りを求めよ。
問題5(重なった因数)
を で割った余りを求めよ。
問題6(余りと因数の合わせ技)
多項式 を で割ると余りが 、 で割ると余りが であるという。 を で割った余りを求めよ。
問題7(高次方程式)
次の方程式を解け。
問題8(一般の で考える)
を自然数とする。 を で割った余りを求めよ。
問題9(割り切れる条件)
が で割り切れるとき、定数 の値を求めよ。またそのときの残りの因数を求めよ。
解答と解説
問題1の解答
商を (最高次を合わせると から始まる1次式)とおいて、係数比較でもできますが、ここは素直に筆算しましょう。
なので、まず を立てます。
引くと
次に なので を立てます。
引くと
これは1次式なので、割る式(2次)より次数が小さい。ここで終了です。
答え:商 、余り
検算: を展開すると ○
問題2の解答
剰余の定理より、余りは です。
これが なので 、。
問題3の解答
余りを とおくと
- :
- :
辺々引くと 、。よって 。
答え:
検算: で ○ で ○
問題4の解答
割る式が3次なので、余りは2次以下。 とおきます。
- :
- :
- :
第2式から第1式を引いて 。第3式から第2式を引いて 。さらに辺々引いて 、。
、。
答え:
検算: で ○ で ○ で ○
ちなみに、この結果は「 の値だけから、2次以下の余りがただ1つに決まる」ことを意味します。3点の値が決まれば2次式が1つに決まる——これが次の第21章でやる一致の定理です。
問題5の解答
方法1(置き換え):、つまり とおくと 。
で割った余りは について1次以下の部分なので、 と の項です。
に戻して
答え:
方法2(微分): の両辺を微分すると
を代入して 。また元の式に を代入して より 。
やはり です。2通りで一致しました。
問題6の解答
割る式が3次なので余りは2次以下。ここでうまい置き方をします。
は で割ると 余るので、 で割った余りを とすると、 も で割ると 余るはずです( の部分は で割り切れるので)。
そこで
とおけます( は2次以下で、 で割った余りが となる形)。
あとは の条件を使います。
を代入すると
条件より なので 。したがって
答え:
検算: を で割ってみます。 なので、余りは ○ また ○
この「余りを『 + すでに分かっている余り』とおく」技は、非常に強力です。未知数を3つ()ではなく1つ()に減らせるので、計算量が激減します。すでに分かっている情報を、置き方に埋め込むという発想です。
問題7の解答
(1) 係数の和は 。したがって が解です。
答え:
(2) とおくと 、すなわち より 。
より 、 より 。
答え:
(2) のように偶数次だけの式(複2次式)は、 と置き換えるのが定石です。置き換えたら、 という条件を忘れないでください(今回は両方正なので問題ありませんでした)。
問題8の解答
割る式が2次なので余りは1次以下。 とおきます。
- :
- :
ここで の偶奇で場合分けします。
が偶数のとき: なので 。 と合わせて 。
が奇数のとき: なので 。 と合わせて 。
答え: が偶数のとき余りは 、 が奇数のとき余りは
検算: なら ○ なら ○
意味を考えると納得できます。 と思ってよいので、 は が偶数なら 、奇数なら 。「 を に置き換えていく」と考えると暗算できます。
問題9の解答
が で割り切れるので、因数定理より かつ 。
- →
- → →
辺々足すと 、。よって 。
このとき で、これは本文の例題3と同じ式です。因数分解すると
答え:、残りの因数は
別解として、3次の係数と定数項から残りの因数を先に当てる方法もあります。 と書けるので、定数項を比べると 、よって 。展開せずに が出るので、こちらのほうが速いことも多いです。
よくある誤解
誤解1:余りの次数を確認せずに、勝手な形をおく
2次式で割るなら余りは1次以下、3次式なら2次以下。ここを間違えると、そもそも答えが出ません。
誤解2: で割るとき、代入だけで済ませようとする
代入できる値が1つしかないので、式が足りません。微分するか、置き換えてください。
誤解3:複2次式で と置いたあと、 を忘れる
が負の解を持つと、実数 は存在しません。第7章・第18章と同じ「置き換えたら範囲を調べる」です。
誤解4:解を探すときに、当てずっぽうで代入する
探すのは定数項の約数だけです。しかも から試すのが定石。効率が全然違います。
よくある質問
Q. 筆算と係数比較、どちらで割り算すべきですか?
商まで必要なら筆算、余りだけでよいなら代入が速いです。係数比較は、商の形がある程度分かっているときに有効。「何を聞かれているか」で使い分けてください。
Q. 組立除法は覚えるべきですか?
覚えると速いですが、必須ではありません。1次式で割るときだけ使える手法なので、汎用性は筆算のほうが上です。時間に余裕があるときに練習しておくとよいでしょう。
Q. 4次以上の方程式が解けません。
因数定理で1つ見つけて次数を下げる、というのが基本です。それでダメなら①複2次式()②相反方程式()③因数分解の工夫のどれかを疑ってください。高校範囲では、この3つでほぼ対応できます。
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割り算と因数定理が終わりました。次の第21章では、問題4の最後に触れた一致の定理を正面から扱います。「3点で一致する2次式は完全に一致する」——なぜでしょうか。そして、この定理の応用として、「接する」とは何かに決着をつけます。「接する=重解」という覚え方の、正しい部分と危ない部分を切り分けます。
◀ 第19章:軌跡と領域は同じ話──通過領域の考え方
▶ 第21章:一致の定理と「接する」の本当の意味
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