数強塾オリジナル無料講座『数学の原理』第22章
最終部です。微分は「公式を覚えて計算する道具」だと思われがちですが、正体はもっと素朴です。中学2年で習った「変化の割合」を、どこまでも細かくしただけ。この章では、変化率・接線・増減という3つの顔が、じつは同じ1つのものであることを見ます。
出発点は、中2の「変化の割合」
藤原です。第22章です。
中学2年で、1次関数の「変化の割合」を習いました。
(変化の割合)=( の増加量)÷( の増加量)
記号で書きましょう。関数 について、 が から まで変わるときの変化の割合は
これは2点を結んだ直線の傾きです。1次関数ならこの値はどこでも同じですが、曲線だと場所によって変わります。
たとえば で、 が から まで変わるときの変化の割合は
これは「 から までの平均的な傾き」です。でも実際には、 付近ではもっと緩やかで、 付近ではもっと急なはず。「その瞬間の傾き」を知りたい。
区間を、限りなく短くする
そこで、区間の幅をどんどん狭めていきます。 から までの変化の割合は
ここで を に近づける。すると「2点を結ぶ直線」が「1点での接線」に近づいていきます。
【微分係数】
これは における接線の傾きであり、同時に における瞬間の変化率である。
実際に で計算してみましょう。
ここで とすると 。だから 。よく見る です。
途中で で割れたのがポイントです。分子に が因数として残るから、割ってから にできる。いきなり を入れると になって困るので、必ず先に約分します。極限の計算は、ほぼ全部この形です。
を、二項定理から作る
一般の でもやってみましょう。ここで第16章の二項定理が効きます。
を引いて で割ると
とすると、 の付いた項は全部消えて、残るのは第1項だけ。
公式の導出、終わりです。二項定理の「1次の項」だけが生き残る。それが微分の正体でした。
微分のいちばん大事な意味──拡大すると直線に見える
ここが、この章でいちばん持ち帰ってほしいところです。
微分係数の定義を、少し書き換えます。 が小さいとき
両辺に を掛けて移項すると
どんな曲線も、狭い範囲で見れば「直線」に見える。
その直線の傾きが 。これが微分の本質です。
地球は丸いのに、私たちには地面が平らに見えますよね。曲線も同じで、拡大すればするほど直線に見える。その「拡大したときに見える直線」が接線であり、傾きが微分係数です。
この式は、実は第16章でも使いました。 で とすると 、 なので
あのとき二項展開の第2項までで近似しましたが、それはこの1次近似そのものでした。
なぜ だと増加するのか
増減表を書くとき、「 が正なら増加、負なら減少」と機械的にやっていませんか。理由はこうです。
1次近似の式 を見てください。 を少し正に取ると(つまり少し右に進むと)
- なら、 なので の値は増える
- なら、 の値は減る
接線の傾きが右上がりなら、関数も右上がり。当たり前のことを言っているだけです。
ただし、逆は成り立ちません。
「極値をとる 」は正しいですが、「 極値をとる」は偽です。
反例は 。 ですが、 の前後でずっと増加していて、極値ではありません(第21章で見たとおり、原点で 軸に接しつつ突き抜けている)。
は極値であるための必要条件にすぎない。第4章の言葉がそのまま使えますね。
だから増減表では、 の符号が実際に変わるかを確認します。プラスからマイナスに変われば極大、マイナスからプラスなら極小、変わらなければ極値ではない。
3次関数のグラフは、3種類しかない
3次関数 ()を考えます。 は2次関数なので、その符号の変わり方は判別式で決まります。
- が異なる2実解: の符号が「正 → 負 → 正」。極大と極小をもつ(山と谷)
- が重解: は1点で0になるだけで符号は変わらない。単調増加(一瞬だけ平ら)
- が実数解なし: は常に正。単調増加
3次関数が極値をもつ ⟺ が異なる2実解をもつ ⟺ の判別式
この事実は、入試で非常によく使います。「3次関数が極値をもつ条件」と聞かれたら、導関数の判別式を正にすればよい。第18章でやった「異なる2実解の条件」がそのまま効きます。
【原理】この章の芯
① 微分係数は「変化の割合」の区間を限りなく狭めたもの。
② それは接線の傾きであり、同時に瞬間の変化率である。
③ 。曲線は拡大すれば直線に見える。
④ の符号がそのまま増減。ただし は極値の必要条件にすぎない。
⑤ 3次関数が極値をもつ条件は「導関数の判別式が正」。
オリジナル問題で確かめる
問題1(平均変化率)
関数 について、 が次のように変化するときの平均変化率を求めよ。
- から まで
- から まで()
- (2) で としたときの極限を求めよ。
問題2(定義から微分する)
定義に従って、 の導関数を求めよ。
問題3(微分の計算)
次の関数を微分せよ。
問題4(接線)
曲線 について、次の接線の方程式を求めよ。
- 点 における接線
- 傾きが である接線
問題5(増減と極値)
関数 の増減を調べ、極値を求めよ。
問題6(極値をもつ条件)
関数 が極値をもつような定数 の範囲を求めよ。
問題7( でも極値でない例)
関数 について、次に答えよ。
- となる を求めよ。
- は極値をもつか。理由とともに答えよ。
問題8(1次近似で概算する)
の における1次近似を用いて、 の近似値を小数第3位まで求めよ。
問題9(範囲つきの最大最小)
関数 の における最大値と最小値を求めよ。
解答と解説
問題1の解答
(1) 、。
(2) 。
(3) より 。
これは を意味します。実際 なので、 が頂点。頂点では接線が水平=傾き0。合っています。
問題2の解答
とすると
展開に第16章の二項定理(またはパスカルの三角形の )を使いました。 で約分できる形にしてから極限を取るのがポイントです。
問題3の解答
(1)
(2) 展開してから微分するのが速いです。
積の微分公式(第21章)を使っても同じです。 を計算すると 、展開して 。一致しました。
問題4の解答
より 。
(1) なので、点 は曲線上にあります。。
答え:
(2) 接点の 座標を とおくと、傾きの条件は 。
より または 。
- :接点 。接線は (1) と同じ
- :
接線は
答え: と
「傾きが〜である接線」と言われたら、接点を とおく。第21章の問題7と同じ発想です。傾きの条件から を求め、そこから接線を作ります。
問題5の解答
より 。符号を調べます。
- :、 なので積は正 → 増加
- :、 なので積は負 → 減少
- :ともに正 → 増加
したがって で極大、 で極小です。
答え: で極大値 、 で極小値
問題6の解答
極値をもつ条件は、 が異なる2実解をもつこと。
答え: または
検算: のとき で常に増加。極値なし ○(範囲外なので正しい)
のとき 、判別式 で異なる2解。極値あり ○
問題7の解答
(1)
より (重解)。
(2) で、しかも 以外では常に正です。つまり は の前後で符号が変わりません。
したがって は全域で単調増加であり、極値をもちません。
答え:極値をもたない
ちなみに です。 を平行移動しただけだと分かれば、極値がないのは一目瞭然ですね。
だけでは極値と言えない。符号が実際に変わるかを、必ず確認してください。
問題8の解答
の導関数は です。
とすると 、。
1次近似の式に を入れて
答え:約
実際の値は 。小数第3位までぴったり合っています。
なぜこんなに精度がよいのか。 は に比べてとても小さいので、「拡大すれば直線に見える」の精度が高いからです。電卓のない時代、こうやって計算していました。
問題9の解答
より が極値の候補。定義域 の中にどちらも入っています。
増減は「 で増加、 で減少、 で増加」。したがって で極大、 で極小。
候補の値をすべて計算します。範囲が切られているので、端点も必ず調べます。
- (極大)
- (極小)
この4つを比べて
答え:最大値 ()、最小値 ( と )
「極大値=最大値」ではありません。この問題では極大値は ですが、最大値は端点の です。
極値は「まわりと比べて」、最大最小は「全体と比べて」。範囲が切られている問題では、必ず端点の値も計算してください。ここが最も多い失点です。
また、最小値が2か所で実現していることにも注目。最小値をとる は1つとは限りません。
よくある誤解
誤解1: なら極値だと思う
必要条件にすぎません。符号が変わるかを確認してください( が反例)。
誤解2:極大値と最大値を混同する
範囲が切られていたら端点も候補です。極大値より端点のほうが大きいことは普通に起きます。
誤解3:極限の計算でいきなり を入れる
になってしまいます。先に約分してから にしてください。
誤解4:「傾きが〜の接線」で、与えられた点を接点だと思う
接点を とおくのが正解です(第21章の問題7と同じ)。
よくある質問
Q. 微分の定義式は覚えないといけませんか?
覚えてください。ただし丸暗記ではなく「変化の割合の区間を狭めたもの」という意味とセットで。入試でも「定義に従って微分せよ」という問題が出ます。
Q. 増減表は必ず書くべきですか?
書いてください。符号の変化を見落とさないためです。とくに問題7のように が重解をもつときは、表を書かないと「極値がある」と誤答しがちです。
Q. 微分と積分は、どうつながるのですか?
次の第23章がまさにその話です。積分は微分の逆であり、しかも第9章でやった「Σと差分」とまったく同じ構造をしています。ここまで来ると、講座全体が1本につながります。
次の章へ
微分の直観が手に入りました。次の第23章は積分です。「なぜ面積が原始関数の差で求まるのか」——この問いに、第9章の望遠鏡和を思い出しながら答えます。Σと積分、差分と微分。この4つが1つの正方形をなしていることが見えたとき、あなたの数学は根本から変わります。
◀ 第21章:一致の定理と「接する」の本当の意味
▶ 第23章:積分の直観──面積と和と原始関数は双子である
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