データの分析では、中心だけでなく散らばりや二つの量の関係も数値とグラフで捉えます。計算結果を出すだけでなく、その数値から何が言えて何が言えないかまで確認しましょう。
データの分析で扱うもの
データは、調査や観測で得た値の集まりです。一人分の点数だけではなく、対象者の選び方、測定方法、欠測した値の有無も分析結果に影響します。
| 見たい特徴 | 主な道具 | 確認すること |
|---|---|---|
| 中心 | 平均値、中央値、最頻値 | どの値の周りに集まるか |
| 散らばり | 範囲、四分位範囲、分散、標準偏差 | 値がどれほど広がるか |
| 分布の形 | 度数分布表、ヒストグラム、箱ひげ図 | 偏り、山、外れ値があるか |
| 二つの量の関係 | 散布図、共分散、相関係数 | 一方が増えると他方がどう変わるか |
| 主張の吟味 | 比較、実験、シミュレーション | 偶然だけでも起こり得る結果か |
度数分布表とヒストグラムは中1「データの分布」、四分位数と箱ひげ図は中2「四分位数と箱ひげ図」、標本の選び方は中3「標本調査」で復習できます。
平均値と偏差
n個のデータを x1, x2, …, xnとすると、平均値 x̄は次の式で求めます。
各データと平均値との差 xi-x̄を偏差といいます。平均値より大きければ正、小さければ負です。偏差の合計は必ず0になります。
正負をそのまま足すと打ち消し合うため、偏差の二乗を使って散らばりを測ります。
分散と標準偏差
分散は、偏差の二乗の平均です。数学Iでは、与えられた n個のデータについて nで割ります。
標準偏差 sは分散の負でない平方根です。分散の単位は元の単位の二乗ですが、標準偏差は元のデータと同じ単位になります。
例題1:分散と標準偏差を求める
データ2, 4, 4, 6の平均値、分散、標準偏差を求めます。
| データ x | 偏差 x-4 | 偏差の二乗 |
|---|---|---|
| 2 | -2 | 4 |
| 4 | 0 | 0 |
| 4 | 0 | 0 |
| 6 | 2 | 4 |
分散=(4+0+0+4)/4=2
標準偏差=√2≒1.41
答え:平均値4、分散2、標準偏差√2です。
分散を速く求める公式
偏差を一つずつ計算する方法のほかに、「二乗の平均-平均の二乗」でも分散を求められます。
(xi-x̄)2を展開して平均すると、偏差の合計が0になることからこの式を得ます。
例題2:二乗の平均を使う
例題1のデータ2, 4, 4, 6で確かめます。
=72/4=18
分散=18-42=2
偏差を使った計算と同じ結果になります。
度数分布表から分散を求める
同じ値が繰り返されるときは、値 xに度数 fを掛けます。データ数は度数の合計です。
例題3:度数を重みとして計算する
値1, 2, 3, 4の度数が、それぞれ1, 2, 2, 1であるデータを考えます。
| 値 x | 度数 f | fx | fx2 |
|---|---|---|---|
| 1 | 1 | 1 | 1 |
| 2 | 2 | 4 | 8 |
| 3 | 2 | 6 | 18 |
| 4 | 1 | 4 | 16 |
| 合計 | 6 | 15 | 43 |
分散=43/6-(5/2)2=43/6-25/4=11/12
標準偏差=√(11/12)≒0.96
答え:平均値5/2、分散11/12、標準偏差√(11/12)です。
データを変換したときの平均・分散
すべてのデータ xを y=ax+b(a, bは定数)へ変換すると、次の関係があります。
| 統計量 | 変換前 | 変換後 |
|---|---|---|
| 平均値 | x̄ | ax̄+b |
| 分散 | sx2 | a2sx2 |
| 標準偏差 | sx | |a|sx |
全員に同じ値 bを足しても散らばりは変わりません。全員を a倍すると、平均との差も a倍になるため、分散は a2倍、標準偏差は |a|倍です。
例題4:単位を変換する
摂氏温度 xの平均が20、標準偏差が3です。華氏温度を y=(9/5)x+32とすると、
標準偏差=|9/5|・3=27/5=5.4
答え:平均68、標準偏差5.4です。32を足す操作は標準偏差を変えません。
平均が同じでも散らばりは違う
| 集団 | データ | 平均値 | 分散 | 標準偏差 |
|---|---|---|---|---|
| A | 4, 5, 5, 6 | 5 | 1/2 | √(1/2) |
| B | 2, 4, 6, 8 | 5 | 5 | √5 |
平均値は同じですが、Bのほうが平均から遠い値を含み、標準偏差も大きくなります。「平均が同じだから同じ集団」とは言えません。
中央値・四分位範囲・外れ値との使い分け
平均値と標準偏差はすべての値を使うため、極端な値の影響を受けます。分布が大きく偏るときや外れ値があるときは、中央値と四分位範囲も併記すると特徴を捉えやすくなります。
箱ひげ図などでは、Q1-1.5IQRより小さい値、または Q3+1.5IQRより大きい値を外れ値の候補とする規則があります。ただし、外れ値は「誤り」とは限りません。入力ミスか、珍しいが正しい観測か、別の集団が混ざったかを調べ、理由なく削除しないことが大切です。
標準化
平均や単位の異なるデータを比べるとき、平均0、標準偏差1になるように変換することを標準化といいます。標準偏差 sが0でないとき、標準化した値 zは、
です。z=2なら、その値は平均より標準偏差2個分だけ上にあります。全データが同じで s=0のときは0で割ることになるため、標準化できません。
例題5:標準化した値を求める
平均50、標準偏差10のテストで70点を取ったとき、
答え:標準化した値は2です。平均より標準偏差2個分だけ高い位置です。
散布図で二つの量の関係を見る
二つの量 x, yを同じ対象から測り、組(x, y)を座標平面上に点で表したものが散布図です。
| y\x | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 6 | ● | ||||
| 5 | ● | ||||
| 4 | ● | ||||
| 3 | ● | ||||
| 2 | ● |
点が全体として右上がりなら正の相関、右下がりなら負の相関があります。直線状のまとまりが弱ければ、線形の相関は弱いと考えます。外れ値、曲線的な関係、複数の集団の混在も確認します。
共分散
共分散は、xと yの偏差の積の平均です。
- 共分散が正:二つの偏差が同じ符号になる組が多い
- 共分散が負:二つの偏差が異なる符号になる組が多い
- 共分散が0に近い:直線的な関係が弱い可能性がある
共分散の大きさは単位に依存します。例えばcmをmへ変えるだけでも数値が変わるため、強さを比べるには相関係数を使います。
相関係数
xと yの標準偏差をそれぞれ sx, syとすると、相関係数 rは次の式です。
sx>0かつ sy>0のとき、-1≦r≦1です。どちらか一方のデータがすべて同じなら、分母が0になるため相関係数は定義されません。
| 相関係数 | 直線的な関係 | 注意 |
|---|---|---|
| rが1に近い | 強い正の相関 | 右上がりの直線に近い |
| rが-1に近い | 強い負の相関 | 右下がりの直線に近い |
| rが0に近い | 線形の相関が弱い | 無関係とは限らず、曲線関係もあり得る |
例題6:相関係数を求める
組(1, 2),(2, 3),(3, 5),(4, 4),(5, 6)について計算します。
xの平均は3、yの平均は4です。
| x | y | x-3 | y-4 | 偏差の積 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | -2 | -2 | 4 |
| 2 | 3 | -1 | -1 | 1 |
| 3 | 5 | 0 | 1 | 0 |
| 4 | 4 | 1 | 0 | 0 |
| 5 | 6 | 2 | 2 | 4 |
xの分散=2、yの分散=2
r=(9/5)/(√2・√2)=9/10=0.9
答え:r=0.9で、強い正の線形相関があります。
相関から因果関係は断定できない
相関関係は二つの量が一緒に変化する傾向、因果関係は一方の変化が他方の変化を引き起こす関係です。相関係数が大きくても、それだけで原因と結果は決まりません。
例えば、気温と飲料の売上がともに増えても、売上が気温を上げたとは限りません。季節という第三の要因が両方へ影響している可能性があります。因果を考えるには、時間の順序、他の要因、対象の選び方、実験の設計などを調べます。
仮説検定の考え方
仮説検定では、まず「差や効果はなく、観測された違いは偶然による」という基準の仮説を置きます。その仮説が正しいとしたとき、実際の結果と同じか、それ以上に極端な結果がどれほど起こりにくいかを、実験やシミュレーションで考えます。
- 調べる主張と、比較の基準となる仮説を作る。
- 結果の「極端さ」を測る統計量を、データを見る前に決める。
- 基準の仮説の下で実験やシミュレーションを多数回行う。
- 実際と同じか、それ以上に極端な結果の割合を求める。
- 割合が十分小さければ、基準の仮説では説明しにくいと判断する。
例題7:硬貨のシミュレーションで考える
AとBの二つの案を20人が独立に選び、16人がAを選びました。事前に「Aのほうが選ばれやすい」と予想していたとします。
基準の仮説を「AとBは同じ確率1/2で選ばれる」とします。公平な硬貨を20回投げる実験を多数回行い、表が16回以上出た割合を調べれば、偶然だけでこの結果が起こる程度を見積もれます。
数学Aの組合せを使って厳密に計算すると、
=6196/1048576≒0.0059
約0.59%なので、基準の仮説の下ではかなり起こりにくい結果です。ただし、これだけでAそのものが選択の原因だと証明したことにはなりません。対象者の選び方、提示順、質問方法なども確認します。
分析の進め方
- 問いを決める:何を比べ、何を明らかにしたいか言葉にします。
- データの由来を確認する:対象、期間、単位、欠測、抽出方法を確認します。
- 分布を見る:表やグラフで偏り、外れ値、集団の混在を探します。
- 適切な指標を選ぶ:平均・標準偏差だけでなく、必要なら中央値・四分位範囲も使います。
- 二変量は散布図から見る:相関係数の前に、形と外れ値を確認します。
- 結論の範囲を守る:相関を因果と断定せず、標本から言える範囲を明示します。
よくある誤り
- 分散で偏差をそのまま平均する:偏差の合計は0になるため、偏差を二乗して平均します。
- 分散と標準偏差を混同する:標準偏差は分散の負でない平方根で、元のデータと同じ単位です。
- すべてに同じ値を足すと標準偏差も増えると考える:平均との差は変わらないため、分散と標準偏差は変わりません。
- 負の数倍で標準偏差も負にする:標準偏差は非負なので、倍率は絶対値 |a|です。
- 相関係数0を「関係なし」と断定する:曲線的な関係は線形相関で捉えにくい場合があります。
- 相関を因果と読む:第三の要因、逆向きの因果、標本の偏りを検討します。
- 外れ値を自動的に削除する:発生理由を調べ、除外の基準を先に定めます。
- 検定で仮説が証明されたと表現する:基準の仮説では説明しにくいかを判断する方法です。
確認問題
- データ1, 3, 5, 7の平均値、分散、標準偏差を求めてください。
- データ2, 2, 4, 8について、二乗の平均-平均の二乗を使って分散を求めてください。
- 平均12、分散5のデータすべてに10を足すと、平均と分散はどうなりますか。
- 標準偏差4のデータをすべて-3倍すると、標準偏差はいくつですか。
- 平均50、標準偏差10のデータで x=35を標準化してください。
- すべての xが同じデータでは、xと yの相関係数を計算できますか。
- 組(1, 6),(2, 4),(3, 2)の相関係数と関係の向きを答えてください。
- r=0.02なら、二つの量は完全に無関係だと言えますか。
- 広告費と売上に強い正の相関がありました。「広告費を増やせば必ず売上が増える」と断定できますか。
- 基準の仮説の下で10,000回シミュレーションし、実際と同じかそれ以上に極端な結果が65回でした。この割合を求め、何が言えるか説明してください。
確認問題の解答
- 平均値4です。偏差は-3, -1, 1, 3なので、分散=(9+1+1+9)/4=5、標準偏差=√5です。
- 平均値は4、二乗の平均は(4+4+16+64)/4=22です。分散=22-42=6です。
- 平均は10増えて22、分散は5のままです。
- |-3|・4=12です。
- z=(35-50)/10=-1.5です。
- xの標準偏差が0で分母が0になるため、定義されません。
- 3点は右下がりの一直線上にあるので、r=-1で、完全な負の線形相関です。
- 言えません。線形の相関はほぼ0ですが、曲線的な関係や集団ごとの関係がある可能性を散布図で調べます。
- 断定できません。第三の要因、広告を増やす時期、商品力などを統制した比較や実験が必要です。
- 65/10000=0.0065=0.65%です。基準の仮説の下では起こりにくい結果ですが、仮説の真偽や因果関係が証明されたわけではありません。
まとめ
- 分散は偏差の二乗の平均、標準偏差は分散の負でない平方根です。
- 平均が同じでも散らばりは異なるため、グラフや標準偏差も確認します。
- 相関係数は-1から1までで、直線的な関係の向きと強さを表します。
- 相関だけでは因果を断定できず、外れ値やデータの集め方も重要です。
- 仮説検定では、基準の仮説の下で観測結果がどれほど起こりにくいかを考えます。
よくある質問
標準偏差が大きいほど悪いデータですか。
一概には言えません。標準偏差は散らばりの大きさを表すだけです。製品寸法のばらつきは小さいほうが望ましい場合がありますが、学習時間や個人差を表すデータでは大きいこと自体が良し悪しを意味しません。
相関係数は何以上なら「強い相関」ですか。
分野や目的によって基準が異なり、絶対的な境界はありません。rの値だけで機械的に判定せず、散布図、標本数、測定誤差、外れ値、分析目的を併せて判断します。
仮説検定で起こりにくい結果なら、仮説は必ず間違いですか。
必ずとは言えません。起こりにくい偶然も一定の割合で起こります。検定は、基準の仮説では結果を説明しにくいかを判断する方法で、調査設計や他の証拠と合わせて解釈します。
学習範囲の根拠
本記事は、文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編」の数学I「データの分析」に示された、分散、標準偏差、散布図、相関係数、情報機器を用いたデータ整理、具体的な事象における仮説検定の考え方を基準にしています。
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