数学I「数と式」では、数を実数まで広げ、式を目的に応じて変形し、一次不等式で値の範囲を表します。公式を形だけで覚えず、分配法則から展開し、その逆として因数分解する流れを理解すると、二次関数や数学IIへつながる計算が安定します。
数と式の位置づけ
現行の学習指導要領で、数学I「数と式」には、実数、集合と命題、二次の乗法公式と因数分解、一次不等式が含まれます。本記事は計算の土台となる実数・式・一次不等式を扱い、集合と命題は次の記事で詳しく扱います。
| 学ぶ内容 | 中学数学とのつながり | 高校数学での広がり |
|---|---|---|
| 実数 | 平方根、根号の計算 | 数の分類、絶対値、無理数の四則計算 |
| 展開・因数分解 | 中3の展開・因数分解 | 係数や文字が増えた二次式、式の構造を利用した変形 |
| 一次不等式 | 一次方程式、数直線 | 解の範囲、連立不等式、条件を満たす整数 |
計算に不安がある場合、すべてを最初からやり直す必要はありません。展開で止まるなら分配法則、根号で止まるなら平方根、一次不等式で止まるなら一次方程式と負の数の大小へ戻りましょう。
実数とは
実数とは、数直線上の点として表せる数の全体です。実数は有理数と無理数に分けられます。
| 数の種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 自然数 | ものの個数を数えるときの正の整数 | 1, 2, 3, … |
| 整数 | 自然数、0、負の整数を合わせた数 | …, -2, -1, 0, 1, 2, … |
| 有理数 | 整数 mと0でない整数 nを使って m/n と表せる数 | -3, 2/5, 0.125, 0.333… |
| 無理数 | 整数の比では表せない実数 | √2, √7, π |
| 実数 | 有理数と無理数を合わせた数 | 数直線上のすべての数 |
有限小数と循環小数は有理数
有限小数は10の累乗を分母にもつ分数へ直せます。たとえば0.125=125/1000=1/8です。循環小数も分数へ直せます。
例題1:循環小数を分数にする
0.272727…を分数で表しましょう。
考え方:x=0.272727…とおきます。循環する部分が2桁なので100倍します。
100x=27.272727…
100x-x=27より、99x=27。
したがって、x=27/99=3/11です。
確かめ:3÷11=0.272727…となります。
絶対値は0からの距離
実数 aの絶対値 |a| は、数直線上で0から aまでの距離です。距離なので常に0以上です。
- a≧0のとき、|a|=a
- a<0のとき、|a|=-a
たとえば |-5|=5です。一方、文字 xの符号が分からないまま |x|=x と外すことはできません。
根号を含む式の計算
a≧0のとき、√aは2乗すると aになる0以上の数です。したがって(√a)2=aですが、√(a2)=|a|です。後者を単に aとすると、a<0のとき誤ります。
平方数を根号の外へ出す
a≧0、b≧0なら √a√b=√(ab)です。根号の中を平方数と残りに分けます。
例題2:根号を簡単にする
√72を簡単にしましょう。
72=36×2なので、√72=√36×√2=6√2です。
確かめ:(6√2)2=36×2=72です。
同じ根号の項をまとめる
√12+√27は、先に√12=2√3、√27=3√3と簡単にします。したがって、2√3+3√3=5√3です。√12+√27=√39ではありません。
例題3:根号を含む式の四則計算
(√12+√27)÷√3を計算しましょう。
√12=2√3、√27=3√3なので、
(√12+√27)÷√3=5√3÷√3=5です。
条件確認:分母の√3は0ではないので、割り算が定義されます。
分母の有理化
分母に根号がある分数を、値を変えずに分母が有理数となる形へ直すことを分母の有理化といいます。分母と分子に同じ0でない数を掛けます。
例題4:共役な式を使った有理化
2/(√5-1)の分母を有理化しましょう。
(√5-1)(√5+1)=5-1=4となるので、分母・分子に√5+1を掛けます。
2/(√5-1)=2(√5+1)/4=(√5+1)/2です。
確かめ:元の分母√5-1は0ではなく、変形では1に等しい(√5+1)/(√5+1)を掛けています。
式の展開
展開とは、積で表された式を、分配法則を使って和の形に直すことです。公式は分配法則の計算をまとめたものなので、忘れても分配法則から作り直せます。
基本の乗法公式
| 形 | 展開結果 | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| (a+b)2 | a2+2ab+b2 | 和の平方。中項は2倍の積 |
| (a-b)2 | a2-2ab+b2 | 差の平方。最後は正 |
| (a+b)(a-b) | a2-b2 | 和と差の積。中項が消える |
| (x+a)(x+b) | x2+(a+b)x+ab | xの係数は和、定数項は積 |
例題5:係数が異なる二つの一次式
(2x-3)(x+5)を展開しましょう。
各項を一度ずつ掛けると、
2x2+10x-3x-15
=2x2+7x-15です。
確かめ:x=1を代入すると、元の式は(-1)×6=-6、展開後も2+7-15=-6です。
式全体を一つの文字のように見る
例題6:同じ構造を見つける
(x+2y)2-(x-2y)2を簡単にしましょう。
A=x+2y、B=x-2yと見ると、A2-B2=(A+B)(A-B)です。
=2x×4y=8xyです。
別の確かめ:二つの平方をそれぞれ展開して引いても、x2と4y2が消え、8xyが残ります。
因数分解
因数分解とは、和で表された式を積の形に直すことです。展開の逆なので、因数分解した答えを展開すれば元の式へ戻るはずです。
因数分解の順序
- 共通因数を探す。すべての項に共通する数・文字があれば先にくくります。
- 項数と形を見る。2項なら平方差、3項なら平方公式や x2+(和)x+(積)を考えます。
- 係数の積と和を整理する。ax2+bx+cでは、acと bの関係を使います。
- 式の一部を一つの文字と見る。x2が繰り返されるなら X=x2と置いて構造を見ます。
- 最後に展開して検算する。係数・符号・項が元の式と一致するか確認します。
例題7:係数が1でない二次式
6x2-x-2を因数分解しましょう。
6×(-2)=-12で、和が-1になる3と-4を使います。
6x2+3x-4x-2
=3x(2x+1)-2(2x+1)
=(3x-2)(2x+1)です。
確かめ:展開すると6x2+3x-4x-2=6x2-x-2へ戻ります。
例題8:置き換えて因数分解する
x4-5x2+4を因数分解しましょう。
X=x2と置くと、X2-5X+4=(X-1)(X-4)です。
元へ戻すと、(x2-1)(x2-4)。さらに平方差を使い、
=(x-1)(x+1)(x-2)(x+2)です。
確かめ:(x2-1)(x2-4)を展開すると、x4-5x2+4です。
一次不等式
不等式は、二つの数量の大小関係を表す式です。ある不等式を成り立たせる文字の値の範囲が、その不等式の解です。
不等式の性質
a<bとします。
- 両辺に同じ数 cを加えても、a+c<b+c
- 両辺から同じ数 cを引いても、a-c<b-c
- c>0なら、両辺に cを掛けても ac<bc
- c<0なら、両辺に cを掛けると ac>bc
負の数を掛けると不等号が逆になるのは、数直線が0を中心に左右反転するためです。たとえば2<5の両辺に-1を掛けると-2>-5です。
例題9:かっこを含む一次不等式
3(2x-1)-5≦2(x+4)を解きましょう。
6x-8≦2x+8
4x≦16
両辺を正の数4で割るので、不等号の向きは変わりません。
x≦4です。
確かめ:境界の x=4では、左辺16、右辺16で等号が成り立ちます。
例題10:負の数で割る一次不等式
-4x+7>19を解きましょう。
-4x>12
両辺を負の数-4で割るため、不等号の向きを逆にして、
x<-3です。
確かめ:解に含まれる x=-4では23>19、含まれない x=0では7>19は成り立ちません。
分数を含む一次不等式
例題11:分母を払って解く
(x-1)/3>(2x+1)/5を解きましょう。
両辺に正の数15を掛けるので、不等号の向きは変わりません。
5(x-1)>3(2x+1)
5x-5>6x+3
-8>x、つまりx<-8です。
確かめ:境界の-8を代入すると両辺は-3で等しく、元の不等式は「>」なので-8は含みません。
連立不等式
二つ以上の不等式を同時に満たす範囲は、それぞれの解の共通部分です。
例題12:一つの式で表された連立不等式
-2≦3x+1<7を解きましょう。
三つの部分から1を引くと、-3≦3x<6。
三つの部分を正の数3で割ると、-1≦x<2です。
確かめ:-1は含み、2は含みません。元の式で x=-1なら-2、x=2なら7です。
一次不等式の利用
例題13:予算内で買える最大個数
送料1,200円と、1個350円の商品があります。合計を4,000円以下にするとき、商品は最大何個買えますか。
商品の個数を x個とすると、xは0以上の整数で、
1,200+350x≦4,000
350x≦2,800より、x≦8。
したがって、最大8個です。
確かめ:8個なら4,000円、9個なら4,350円で予算を超えます。
絶対値を含む不等式
a>0のとき、|x|<aは「xと0の距離が aより小さい」という意味なので、-a<x<aです。一方、|x|>aは x<-aまたは a<xです。
例題14:絶対値を距離として読む
|2x-3|<5を解きましょう。
-5<2x-3<5
-2<2x<8
したがって、-1<x<4です。
確かめ:境界の-1と4では絶対値が5になるため、「<5」の解には含みません。
よくある誤りと直し方
| 誤り | なぜ誤りか | 直し方 |
|---|---|---|
| √(a2)=a | aが負なら右辺が負になり、平方根が0以上という定義に反する | √(a2)=|a|とする |
| √a+√b=√(a+b) | 平方根は加法に対して分配できない | それぞれ簡単にし、同じ根号の項だけまとめる |
| (a-b)2=a2-b2 | 中項-2abと最後の+b2が抜けている | (a-b)(a-b)から作る |
| 共通因数を残したまま因数分解を終える | 積の形が十分に整理されていない | 最初に最大の共通因数をくくり、最後にも再確認する |
| 移項するたび不等号を逆にする | 移項は両辺への加減であり、不等号の向きは変わらない | 負の数を両辺に掛ける・負の数で両辺を割るときだけ逆にする |
| 文章題で x≦8.3を8.3個と答える | 個数は整数という場面の条件を満たさない | 式の解と、問題の条件を同時に満たす整数を選ぶ |
確認問題
- (3x+2)2を展開してください。
- (2a-b)(2a+b)を展開してください。
- x2+7x+10を因数分解してください。
- 4x2-12xy+9y2を因数分解してください。
- -7、0.125、√7を、それぞれ有理数・無理数に分類してください。
- √50-2√8を簡単にしてください。
- 3/√6の分母を有理化してください。
- -4x+7>19を解いてください。
- (2x-3)/4≦(x+5)/3を解いてください。
- |x+2|≦3を解いてください。
確認問題の解答と確かめ方
- 9x2+12x+4。中項は2×3x×2です。
- 4a2-b2。和と差の積です。
- (x+5)(x+2)。和が7、積が10です。展開して確かめます。
- (2x-3y)2。平方の公式の中項は-12xyです。
- -7と0.125は有理数、√7は無理数です。0.125=1/8です。
- √50-2√8=5√2-4√2=√2です。
- 3/√6=3√6/6=√6/2です。
- -4x>12より、負の数-4で割ってx<-3です。
- 両辺に正の数12を掛けると、3(2x-3)≦4(x+5)。6x-9≦4x+20より、x≦29/2です。
- -3≦x+2≦3より、-5≦x≦1です。両端では絶対値が3になります。
学習を定着させる順序
- 分配法則から公式を作る。公式を見ずに一度展開し、各項の由来を確かめます。
- 展開と因数分解を対にする。因数分解した直後に展開し、元へ戻るか確認します。
- 数の分類を包含関係で整理する。一つの数が複数の分類に属することを理解します。
- 不等式を数直線で確かめる。境界を含むか、どちら向きの範囲かを図にします。
- 翌日に混合問題を解く。問題名を見ずに、展開・因数分解・不等式のどれを使うか自分で判断します。
よくある質問
展開公式はすべて暗記しなければなりませんか。
使えるように覚える必要はありますが、最初から形だけを暗記する必要はありません。分配法則で展開し、同類項をまとめる過程から公式を作ると、符号や中項を忘れたときにも復元できます。
因数分解の答えが正しいか、どう確かめますか。
答えを展開し、元の式へ戻るか確認します。各次数の係数と定数項がすべて一致すれば、符号や係数の取り違えを見つけやすくなります。
不等号の向きは、移項すると変わりますか。
変わりません。移項は両辺へ同じ数を加える・引く操作を短く書いたものです。不等号の向きが変わるのは、両辺に同じ負の数を掛けるとき、または両辺を同じ負の数で割るときです。
既存の「数と式1〜10」は何に使えますか。
既存ページは演習PDFと解答・解説PDFへの入口です。本記事で定義・公式・条件を理解した後、高校1年の教材一覧から数と式1〜10を使って練習してください。
学習範囲の根拠
本記事は、文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編」の数学I「数と式」を基準にしています。実数、二次の乗法公式と因数分解、一次不等式を扱い、集合と命題は独立した次記事で詳しく説明します。
