このページは「展開の工夫」——4つ以上の式の積を、まともに掛けずに片づける技術です。(x−1)(x−2)(x−3)(x−4) を左から順に掛けると、途中で3次式×1次式になって計算量が跳ね上がります。掛ける順番を変えるだけで、同じ答えが半分の手間で出る——その仕組みを、なぜそうなるのかから解きます。
まともに掛けると何が起こるか
(x−1)(x−2)(x−3)(x−4) を左から順に処理すると:
- (x−1)(x−2) = x² − 3x + 2
- それに (x−3) を掛けて3次式
- さらに (x−4) を掛けて4次式——項が増え続ける
途中で扱う項の数が増えていくので、符号ミスが起きやすいのが最大の問題です。
工夫の核心——共通部分を作る
定数項の和が等しくなる組で掛ける
(−1) + (−4) = −5、(−2) + (−3) = −5。和が等しい2組に分けて掛けると、どちらにも同じ x² − 5x が現れます。この共通部分が置きかえの材料になります。
組み合わせを選ぶだけで、置きかえの材料ができる
(x − 1)(x − 4) = x² − 5x + 4 (x − 2)(x − 3) = x² − 5x + 6
どちらにも x² − 5x が入っています。そこで:
t = x² − 5x とおくと (t + 4)(t + 6) = t² + 10t + 24
あとは t を戻すだけです。
(x² − 5x)² + 10(x² − 5x) + 24 = x⁴ − 10x³ + 35x² − 50x + 24
なぜ「定数項の和」で組むのか
(x + p)(x + q) = x² + (p + q)x + pq。x の係数を決めるのは p + q だけです。
だから和が等しい組どうしなら、x² と x の部分がそっくり同じになり、定数項だけが違う形になります——それが共通部分の正体です。
この組み方では工夫が効かない
組み方を間違えるとどうなるか
(x−1)(x−2) と (x−3)(x−4) で組むと、x² − 3x + 2 と x² − 7x + 12。x の係数が −3 と −7 で違うので、共通部分ができません。「和が等しくなる組を探す」のが最初の一手です。
対称式——和と積だけで値が出る
展開の工夫と表裏の関係にあるのが対称式です。x と y を入れ替えても変わらない式は、必ず x + y と xy だけで書けます。
x² + y² = (x + y)² − 2xy
3乗も同じように、和と積だけで表せます。
x³ + y³ = (x + y)³ − 3xy(x + y)
x と y を求める必要はない
x + y と xy が分かれば、x や y そのものを求めなくても x² + y² も x³ + y³ も出ます。2次方程式を解いて √ が出てきても、対称式に代入すればきれいな整数に戻る——これが対称式の威力です。
つまずくのはここ
つまずき1|4つの積を左から順に掛ける
答えは出ますが、3次式×1次式の段階で項が増え、符号ミスの温床になります。掛ける前に組み合わせを見る——この一呼吸が計算量を半分にします。
つまずき2|置きかえた文字を戻し忘れる
t で答えを書いて終わってしまう事故です。t = x² − 5x を最後に必ず戻す。答えが x の式になっているかを確認してください。
つまずき3|対称式の公式を丸暗記する
x³ + y³ = (x+y)³ − 3xy(x+y) は、(x+y)³ を展開すればその場で導けます。(x+y)³ = x³ + 3x²y + 3xy² + y³ = x³ + y³ + 3xy(x+y)——移項するだけです。
数強塾オリジナルの練習問題
Axis 数学I+A の「展開の工夫」と同じ技能構成で、数値と設定を独自に設計した問題です。
標準練習1
次の式を展開しなさい。
(x + 1)(x + 2)(x + 3)(x + 4)
解答・解説を見る
解答
定数項の和が等しい組を探します。
1 + 4 = 5、2 + 3 = 5 → (x+1)(x+4) と (x+2)(x+3) で組む
(x + 1)(x + 4) = x² + 5x + 4
(x + 2)(x + 3) = x² + 5x + 6
t = x² + 5x とおくと (t + 4)(t + 6) = t² + 10t + 24
t を戻して
(x² + 5x)² + 10(x² + 5x) + 24
= x⁴ + 10x³ + 25x² + 10x² + 50x + 24
= x⁴ + 10x³ + 35x² + 50x + 24
検算:x = 1 を代入すると、左辺 = 2 × 3 × 4 × 5 = 120。右辺 = 1 + 10 + 35 + 50 + 24 = 120 ○
x = 0 なら 1×2×3×4 = 24 と定数項 24 が一致 ○
数値を1つ入れるだけの検算で、展開ミスのほとんどは捕まります。
応用練習2
(練習1のつづき)(x + 1)(x + 2)(x + 3)(x + 4) + 1 を因数分解しなさい。
解答・解説を見る
解答
練習1の途中で作った t = x² + 5x の形に戻ります。
(t + 4)(t + 6) + 1 = t² + 10t + 25 = (t + 5)²
t を戻して
(x² + 5x + 5)²
検算:x = 1 のとき、左辺 = 120 + 1 = 121。右辺 = (1 + 5 + 5)² = 11² = 121 ○
x = 0 のとき、左辺 = 24 + 1 = 25、右辺 = 5² = 25 ○
連続する4整数の積に1を足すと平方数になる——この有名な事実の正体が、この計算です。1×2×3×4 + 1 = 25 = 5²、2×3×4×5 + 1 = 121 = 11²。展開の工夫が、整数の性質の証明になっているのが面白いところです。
標準練習3
x + y = 3、xy = 1 のとき、次の値を求めなさい。
(1)x² + y² (2)x³ + y³ (3)(x − y)² (4)x⁴ + y⁴
解答・解説を見る
解答
(1)x² + y² = (x + y)² − 2xy = 3² − 2 × 1 = 7
(2)x³ + y³ = (x + y)³ − 3xy(x + y) = 27 − 3 × 1 × 3 = 18
(3)(x − y)² = (x + y)² − 4xy = 9 − 4 = 5
(x − y は ±√5 で、符号は決まりません。2乗なら決まるのがこの問題の型です)
(4)x⁴ + y⁴ = (x² + y²)² − 2(xy)² = 7² − 2 × 1² = 47
((1)の結果を使う——2乗の和を、さらに2乗すると考えます)
検算:x、y は t² − 3t + 1 = 0 の解なので t = 3 ± √5/2。
この無理数を実際に代入しても、(1)〜(4)はすべて整数になります(機械計算で確認済み)。
√ が消えるのは偶然ではありません——対称式は和と積で書けるので、和も積も整数なら結果も整数になります。
この工夫が効く場面
- 4つ以上の1次式の積——定数項の和で組む
- (a+b+c+d)² のような多項の平方——2つずつまとめてから展開
- √ を含む値の計算——対称式に持ち込めば有理数に戻る
- 2次方程式の解の関係——解と係数の関係が、そのまま x+y と xy を与えてくれる
共通しているのは「計算する前に、式の形を見る」という一手です。手を動かす速さより、動かす前の観察のほうが結果を大きく変えます。
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