この記事は、数強塾グループ代表・藤原進之介がYouTubeで公開している「計算の工夫#5 慶應義塾高校入試|私立|難問」(10分/2020年4月公開)の内容を、記事の形でまとめたものです。慶應義塾高校に関連する内容を探している方の参考になるよう、動画の要点と、同じ範囲でつまずいたときの学習手順を整理しています。
計算の工夫#5 慶應義塾高校入試|分数のかけ算|私立難問。
動画概要より
解説動画
動画では実際に手を動かしながら解説しています。YouTubeで見る
出典:慶應義塾高校の入試問題
この問題は慶應義塾高校の入試で出題されたものです。慶應義塾高校の数学は、計算量そのものより、条件を式に翻訳する段階で差がつきます。過去問に入る前に、典型問題を「なぜその式を立てるのか」まで説明できる状態にしておく必要があります。
計算の工夫のどこでつまずくか
計算の工夫は、計算そのものより「立式まで」で差がつきます。問題文の条件を式に翻訳する段階で手が止まる場合、計算練習を増やしても成績は上がりません。
取り組む順番
- 教科書の例題を、答えを見ずに最後まで書き切る
- 間違えた問題だけを翌日にもう一度解く
- 解けた問題は、なぜその式を立てたのかを一文で説明する
数強塾について
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計算の工夫は「手を動かす前の5秒」で決まる ─ 自作演習5問
この記事は、上で「計算そのものより立式まで で差がつきます」「計算練習を増やしても成績は上がりません」と書いています。ではどこを増やせばよいのか。答えは計算する回数ではなく、式を見る回数です。ところが本文には、その「工夫」の中身 ─ 式のどこを見るのか ─ が1つも書かれていません。ここを5問で埋めます。
この5問の使い方:ふつうの計算問題として解かないでください。1問ずつ、まず「式のどこを見て、何を疑ったか」を一言で書いてから手を動かします。書けないまま計算を始めた問題は、たとえ正解しても工夫の練習になっていません。1問あたり1〜2行で終わります。
※以下の5問は数強塾で作成したオリジナル問題です。実際の入試で出題されたものではありません。
類題1 かけ算だけが並んでいる式
次を計算しなさい。
\[ \frac{3}{4}\times\frac{8}{9}\times\frac{15}{10} \]
素直にやると
\( \frac{3}{4}\times\frac{8}{9}=\frac{24}{36}=\frac{2}{3} \)、続けて \( \frac{2}{3}\times\frac{15}{10}=\frac{30}{30}=1 \)。約分を2回、途中で2桁どうしのかけ算が2回出ます。
疑うこと:かけ算だけの式は、どこと どこを約分してもよい
この式には足し算も引き算も入っていません。そういう式は、全部を1本の分数と見てよいので、
\[ \frac{3\times 8\times 15}{4\times 9\times 10} \]
と書き直せます。あとはななめに約分します。3と9で3、8と4で4、15と10で5が消えて、分子も分母も 360。答えは 1 です。2桁のかけ算は1回も出てきません。
なぜ約分してよいのかが説明できないと、この技は使うたびに不安になります。理由は なぜ約分してよいのか に、分数のかけ算・割り算そのものの理由は なぜ分数で割ると逆数を掛けるのか にあります。
この技が使えない形:\( \frac{3}{4}+\frac{8}{9}\times\frac{15}{10} \) のように足し算が1つでも混ざったら、ななめの約分はできません。かけ算だけ、が条件です。
類題2 同じ数が2回出てくる式
次を計算しなさい。
\[ \frac{7}{12}\times 35+\frac{7}{12}\times 13 \]
素直にやると
\( \frac{7}{12}\times 35=\frac{245}{12} \)、\( \frac{7}{12}\times 13=\frac{91}{12} \)、足して \( \frac{336}{12}=28 \)。3桁の分子が2つ出てきます。
疑うこと:同じ数が2回あるなら、くくれる
\( \frac{7}{12} \) が2回書いてあります。くくると
\[ \frac{7}{12}\times(35+13)=\frac{7}{12}\times 48=28 \]
ここで出てきた 48 は、もとの式のどこにも書かれていない数です。工夫とは、多くの場合「書かれていない数を1つ作る」ことだと思ってください。48 は 12 で割り切れるので、そのまま答えが出ます。
くくる操作は、展開の逆向きです。展開:分配法則から乗法公式へつなげる を見ると、この2つが同じ1本の法則の表と裏だと分かります。
類題3 2乗ひく2乗の形
次を計算しなさい。
\[ \left(\frac{7}{3}\right)^{2}-\left(\frac{4}{3}\right)^{2} \]
素直にやると
\( \frac{49}{9}-\frac{16}{9}=\frac{33}{9}=\frac{11}{3} \)。分母がそろっているので、これでも悪くありません。ただし 7 と 4 を2乗する手間があります。
疑うこと:2乗ひく2乗は、和と差の積になる
\[ \left(\frac{7}{3}+\frac{4}{3}\right)\left(\frac{7}{3}-\frac{4}{3}\right)=\frac{11}{3}\times\frac{3}{3}=\frac{11}{3} \]
差のほうが \( \frac{3}{3}=1 \) になったので、かけ算すら要りません。2乗を1回も計算せずに答えが出ました。数が大きいほど差が開きます。
どのペアを先に掛けるか、どこを1つのかたまりと見るか ─ この判断をまとめて練習できるのが 展開の工夫|共通部分の置きかえと「どのペアから掛けるか」の選び方 です。
まちがえやすい点:これは引き算のときだけの技です。\( \left(\frac{7}{3}\right)^{2}+\left(\frac{4}{3}\right)^{2} \) は、中学の範囲では2つの数のかけ算に直せません。「2乗が2つ見えた」だけで飛びつくと、ここで止まります。
類題4 同じ形がいくつも並んでいる式
次を計算しなさい。
\[ \left(1+\frac{1}{2}\right)\left(1+\frac{1}{3}\right)\left(1+\frac{1}{4}\right)\left(1+\frac{1}{5}\right) \]
まず、かっこの中を1つの分数にする
\( 1+\frac{1}{2}=\frac{3}{2} \)、\( 1+\frac{1}{3}=\frac{4}{3} \)、\( 1+\frac{1}{4}=\frac{5}{4} \)、\( 1+\frac{1}{5}=\frac{6}{5} \)。ここまでが工夫の入口です。かっこの中がバラバラの形のままだと、次に何が見えるかが分かりません。
疑うこと:となりどうしで消えないか
\[ \frac{3}{2}\times\frac{4}{3}\times\frac{5}{4}\times\frac{6}{5} \]
3 が消え、4 が消え、5 が消え、いちばん外側の 6 と 2 だけが残ります。答えは \( \frac{6}{2}=3 \)。
この問題は、素直に前から掛けても答えが出ます(途中は \( \frac{3}{2},\ 2,\ \frac{5}{2},\ 3 \) と進み、分母がふくらみません)。それでもこの見方を練習する理由は、速さではなく見通しにあります。かっこが10個・100個に増えても、「外側だけ残る」ので答えの形が先に分かる ─ 5 のところが \( n \) まで続けば、答えは \( \frac{n+1}{2} \) です。工夫は、問題が大きくなったときに初めて価値が出ます。
足し算でとなりが消える版が部分分数分解です。部分分数分解のやり方|1つの分数を2つに割って、途中を消す型を例題7問で で同じ考え方を、そもそも通分とは何をしているのかを なぜ分母の違う分数はそのまま足せないのか で確認できます。
類題5 工夫が無い式(これがいちばん大事です)
次を計算しなさい。
\[ \frac{2}{7}\times\frac{5}{9} \]
答え:\( \frac{10}{63} \)
ななめに見ても、2 と 9、5 と 7 はどこにも共通の約数がありません。くくれる数もなく、2乗も無く、並んでもいません。この式に工夫はありません。そのまま掛けて終わりです。
工夫を探して手が止まるのが、いちばん損をする状態です。類題1〜4の型を4つとも当てはめてみて、どれにも当てはまらなければ、そこで探すのをやめて普通に計算します。目安は30秒。試験中に「もっとうまい方法があるはずだ」と粘って3分使うより、30秒で見切って60秒で計算し切るほうが、必ず速く終わります。
見切りをつけた回数も記録してください
工夫の練習で伸びたかどうかは、工夫が使えた回数だけでは測れません。「探したが無かったので、すぐ普通に計算した」回数も同じくらい大事な記録です。上達すると、この見切りが速くなります。
まとめ:手を動かす前の5秒で見る4か所
| 式の見た目 | 疑うこと | 使う技 | この記事の類題 |
|---|---|---|---|
| かけ算だけが並んでいる | ななめに約分できないか | 1本の分数にまとめてから約分 | 類題1 |
| 同じ数が2回以上ある | くくれないか | 分配法則の逆(書かれていない数を作る) | 類題2 |
| \( \bigcirc^{2}-\triangle^{2} \) の形 | 和と差の積にならないか | \( (\bigcirc+\triangle)(\bigcirc-\triangle) \) | 類題3 |
| 同じ形がいくつも並ぶ | となりどうしで消えないか | かっこの中を1つの分数にしてから見る | 類題4 |
| どれにも当てはまらない | 探すのをやめる | そのまま普通に計算する(30秒で見切る) | 類題5 |
この表は上から順に見る手順書として使ってください。4行目まで見て当たらなければ5行目、というだけの話です。4か所しかありません。「計算の工夫」という言葉が、覚えきれないほど多くの技を指しているように見えるのは、型の一覧を持っていないからです。
この記事の「取り組む順番」を、計算の工夫向けに言いかえる
上の「取り組む順番」の3番目は「解けた問題は、なぜその式を立てたのかを一文で説明する」でした。計算の工夫では、立てる式が問題文に最初から書いてあります。そこで、この一文はこう読みかえてください。
「なぜその順番で計算したのかを、一文で説明する」
| もとの言い方 | 計算の工夫での言い方 | 言えていれば こうなる |
|---|---|---|
| なぜその式を立てたのか | なぜその順番で計算したのか | 「かけ算だけだったので、先に約分した」 |
| 条件を式に翻訳する | 式の形から型を1つ選ぶ | 「同じ数が2回あったので、くくった」 |
| 計算練習を増やしても上がらない | 増やすのは式を見る回数 | 5問すべて1〜2行。計算量は増えていない |
この記事が「計算練習を増やしても成績は上がりません」と書いているのは、そのとおりです。増やすべきものが違うからで、上の5問はどれも1〜2行で終わるように作ってあります。計算量を増やさずに、式を見る回数だけを5回増やしたのがこの演習です。
中学の計算から高校の数と式まで、どの順番で積み上がっているのかを1枚で見たい場合は 数と式 完全攻略ロードマップ|小学算数から最難関大入試まで一本でつなぐ学習地図 をどうぞ。ここで練習した「式の形を見てから手を動かす」は、そのまま高校の因数分解・式の値の計算に持ち上がります。

