横浜女学院の高校1年生には、夏休みの課題として問題冊子が配られます。2次関数の最後に出てくる「すべての \(x\) について〜が成り立つような \(a\) の範囲を求めよ」という問題は、多くの人が「何を聞かれているのか分からない」と感じるところです。
実はこの問題、最大・最小の考え方がそのまま使えます。新しく覚えることは一つもありません。「つねに正である」という日本語を、グラフの言葉に翻訳するだけです。この記事では、その翻訳の仕方を、判別式の正体まで含めて丁寧に見ていきます。
この記事で扱う「型」
つねに成り立つ条件(絶対不等式)=「すべての \(x\) で \(f(x) \gt 0\)」を、「\(f(x)\) の最小値が正」と言い換えて処理する型。数学IIの図形と方程式、数学IIIの関数の議論まで、ずっと使い続ける考え方です。
1.この記事で解く問題
【例題1】すべての実数で成り立つ条件
すべての実数 \(x\) について \(x^2 + 2ax + 3a \gt 0\) が成り立つような、定数 \(a\) の値の範囲を求めよ。
【例題2】範囲が限られている場合
\(0 \leqq x \leqq 2\) を満たすすべての \(x\) について \(x^2 – 2ax + 1 \gt 0\) が成り立つような、定数 \(a\) の値の範囲を求めよ。
【答えだけ先に】
例題1:\(0 \lt a \lt 3\)
例題2:\(a \lt 1\)
※例題2を「判別式が負」だけで処理した人は、答えが違っているはずです。なぜ通用しないのかを、以下で確かめてください。
2.「つねに正」をグラフの言葉に翻訳する
まず、日本語のままでは手が動きません。次のように言い換えます。
この単元の合言葉
「すべての \(x\) で \(f(x) \gt 0\)」=「\(f(x)\) のグラフ全体が \(x\) 軸より上」=「\(f(x)\) の最小値が正」
下に凸の2次関数には必ず最小値があります。一番低いところが \(x\) 軸より上なら、他はもっと上。だから最小値だけ見れば十分なのです。
図1:下に凸の放物線の3つの状態。最小値が正なら全体が \(x\) 軸より上(つねに正)、\(0\) なら1点で触れる、負なら \(x\) 軸より下にはみ出す部分ができる。
3.例題1|最小値を出して、正になる条件を書く
【問題(再掲)】
すべての実数 \(x\) について \(x^2 + 2ax + 3a \gt 0\) となる \(a\) の範囲。
\(f(x) = x^2 + 2ax + 3a\) とおいて、平方完成します。\(x\) の係数 \(2a\) の半分は \(a\) です。
\[f(x) = (x + a)^2 – a^2 + 3a\]
\(x^2\) の係数は \(1\) で正なので下に凸。\(x\) の範囲に制限がないので、最小値は頂点の \(y\) 座標そのものです。
\(f(x)\) の最小値 = \(-a^2 + 3a\)
これが正であればよいので、
\[-a^2 + 3a \gt 0\]
両辺に \(-1\) を掛けます。不等号の向きが変わることに注意してください。
\[a^2 – 3a \lt 0\]
左辺を因数分解します。
\[a(a – 3) \lt 0\]
2つの数の積が負になるのは、符号が違うときです。したがって、
\[0 \lt a \lt 3\]
【答】
\[0 \lt a \lt 3\]
判別式の正体
この問題は「判別式 \(D \lt 0\)」でも解けます。実際に確かめてみましょう。\(x^2 + 2ax + 3a = 0\) の判別式は、
\[\frac{D}{4} = a^2 – 3a\]
\(D \lt 0\) より \(a^2 – 3a \lt 0\)。平方完成で出した式とまったく同じになりました。
なぜ一致するのか
判別式は「\(x\) 軸と交わるかどうか」を判定する道具でした。下に凸のグラフが \(x\) 軸と交わらない(\(D \lt 0\))ことと、最小値が正であることは同じ現象を別の言葉で言っただけです。
「公式だから \(D \lt 0\)」ではなく、「最小値が正だから交わらない」と説明できる状態を目指してください。
【検算】\(a = 1\)(範囲の中)なら \(f(x) = x^2+2x+3 = (x+1)^2+2\) で最小値 \(2 \gt 0\)。成り立ちます。\(a = 4\)(範囲の外)なら \(f(x) = x^2+8x+12 = (x+4)^2-4\) で最小値 \(-4\)。\(x=-4\) のとき負になるので成り立ちません。答えの範囲が正しいことが確認できました。
4.例題2|範囲が限られた瞬間、判別式は使えなくなる
【問題(再掲)】
\(0 \leqq x \leqq 2\) のすべての \(x\) について \(x^2 – 2ax + 1 \gt 0\) となる \(a\) の範囲。
ここが今回いちばん大事なところです。調べる範囲が \(0 \leqq x \leqq 2\) に限られています。範囲の外で負になっても構わないので、「\(x\) 軸と交わらない」条件(判別式)では厳しすぎて、正しい答えになりません。
使うのは、さっきと同じ一行です。「その範囲での最小値が正」。ただし、範囲つきの最小値なので場合分けが必要になります。
\(f(x) = x^2 – 2ax + 1 = (x-a)^2 + 1 – a^2\)。軸は \(x = a\)、下に凸です。
図2:青い帯が調べる範囲 \(0 \leqq x \leqq 2\)。左=軸が左の外、中=軸が範囲の中、右=軸が右の外。●が範囲内での最小値をとる点で、緑なら条件成立、赤なら不成立。
(i) \(a \lt 0\) のとき(軸が範囲の左の外)
範囲の中では右上がりなので、最小は左端 \(x = 0\)。
\[f(0) = 0 – 0 + 1 = 1\]
\(1 \gt 0\) はつねに成り立つので、\(a \lt 0\) はすべて条件を満たします。
(ii) \(0 \leqq a \leqq 2\) のとき(軸が範囲の中)
最小は頂点の \(1 – a^2\)。これが正であればよいので、
\[1 – a^2 \gt 0\]
\[a^2 \lt 1\]
\[-1 \lt a \lt 1\]
いまは \(0 \leqq a \leqq 2\) を仮定しているので、重なる部分をとって \(0 \leqq a \lt 1\)。
【なぜ重ねるのか】場合分けの中で出した答えは、その場合の仮定と両立していなければ意味がありません。「仮定 \(\cap\) 導いた条件」が、その場合の答えになります。ここを忘れると、範囲が広くなりすぎます。
(iii) \(a \gt 2\) のとき(軸が範囲の右の外)
範囲の中では右下がりなので、最小は右端 \(x = 2\)。
\[f(2) = 4 – 4a + 1 = 5 – 4a\]
これが正であればよいので \(5 – 4a \gt 0\)、すなわち \(a \lt \dfrac{5}{4}\)。
しかし、いまは \(a \gt 2\) を仮定しています。\(a \gt 2\) と \(a \lt \dfrac{5}{4}\) を同時に満たす \(a\) は存在しません。よってこの場合は解なしです。
まとめる
3つの場合の答えを合わせます(「または」でつなぐ)。
| 場合 | 範囲内の最小値 | 条件 | その場合の答え |
|---|---|---|---|
| \(a \lt 0\) | \(f(0) = 1\) | つねに成立 | \(a \lt 0\) 全部 |
| \(0 \leqq a \leqq 2\) | \(1 – a^2\) | \(-1 \lt a \lt 1\) | \(0 \leqq a \lt 1\) |
| \(a \gt 2\) | \(5 – 4a\) | \(a \lt \frac{5}{4}\) | なし(矛盾) |
\(a \lt 0\) と \(0 \leqq a \lt 1\) を合わせると、\(a \lt 1\) になります。
【答】
\[a \lt 1\]
【検算】\(a = 0.9\) なら \(f(x) = x^2 – 1.8x + 1\)、最小値は \(1 – 0.81 = 0.19 \gt 0\)(軸 \(0.9\) は範囲内)。成り立ちます。\(a = 1\) なら最小値 \(0\) となり「\(\gt 0\)」を満たしません(等号は不可)。\(a = 1\) を含めてはいけない理由が、ここではっきりします。
5.なぜ判別式では解けなかったのか
もし例題2を判別式で処理すると、\(\dfrac{D}{4} = a^2 – 1 \lt 0\) から \(-1 \lt a \lt 1\) となります。しかし正解は \(a \lt 1\)。\(a = -5\) のような値が抜け落ちてしまいます。
実際 \(a = -5\) のとき \(f(x) = x^2 + 10x + 1\) は \(x\) 軸と交わります(\(D \gt 0\))。しかし交わっているのは \(x\) が負の領域で、いま見ている \(0 \leqq x \leqq 2\) の中では正のままです。
使い分けの結論
・\(x\) がすべての実数を動く → 判別式でも最小値でも解ける
・\(x\) の範囲が限られている → 最小値でしか解けない(判別式は使えない)
「絶対不等式は判別式」と丸暗記していると、範囲つきの問題で必ず間違えます。つねに最小値で考えると覚えておけば、どちらも同じ方法で解けます。
6.この型でよく落とす3か所
ミス1 範囲つきなのに判別式で処理する
最頻出のミス。範囲が書いてあったら最小値、と反射で切り替えてください。
ミス2 場合分けの仮定と導いた条件を重ねない
\(0 \leqq a \leqq 2\) の場合に \(-1 \lt a \lt 1\) が出たら、答えは重なりの \(0 \leqq a \lt 1\)。数直線に2本描いて重なりを取るのが確実です。
ミス3 等号の扱いを間違える
\(f(x) \gt 0\)(つねに正)なら最小値も \(\gt 0\) で、等号は入りません。\(f(x) \geqq 0\) なら最小値 \(\geqq 0\)。問題文の不等号をそのまま最小値に写すと考えれば迷いません。
7.確認問題
【確認問題】
\(-1 \leqq x \leqq 1\) を満たすすべての \(x\) について \(x^2 + 2ax + 2 \gt 0\) が成り立つような \(a\) の範囲を求めよ。
【解答】
\(f(x) = (x+a)^2 + 2 – a^2\)、軸は \(x = -a\)、下に凸。
・軸が左の外(\(-a \lt -1\)、すなわち \(a \gt 1\))→ 最小は \(f(-1) = 3 – 2a \gt 0\) より \(a \lt \dfrac{3}{2}\)。仮定と重ねて \(1 \lt a \lt \dfrac{3}{2}\)
・軸が範囲の中(\(-1 \leqq -a \leqq 1\)、すなわち \(-1 \leqq a \leqq 1\))→ 最小は \(2 – a^2 \gt 0\) より \(-\sqrt{2} \lt a \lt \sqrt{2}\)。仮定と重ねて \(-1 \leqq a \leqq 1\) 全部
・軸が右の外(\(-a \gt 1\)、すなわち \(a \lt -1\))→ 最小は \(f(1) = 3 + 2a \gt 0\) より \(a \gt -\dfrac{3}{2}\)。仮定と重ねて \(-\dfrac{3}{2} \lt a \lt -1\)
3つを合わせて、
\[-\frac{3}{2} \lt a \lt \frac{3}{2}\]
検算:\(a = 1.4\) なら \(f(x) = x^2+2.8x+2\)、\(x=-1\) で \(1-2.8+2 = 0.2 \gt 0\)。成り立ちます。\(a = 1.5\) なら \(x=-1\) で \(1-3+2 = 0\) となり、\(\gt 0\) を満たしません。境目が正しいことが確認できます。
8.横浜女学院の高1へ:この考え方は、ここから2年半使い続ける
横浜女学院は中高一貫で数学を先に進めるため、高1の夏に扱う内容が、そのまま大学入試の答案で問われます。「つねに成り立つ条件」は、共通テストでも国公立2次でも、単独でも誘導の一部としても繰り返し登場します。
そして、この型で身につくのは計算力ではありません。日本語の条件を、グラフの状態に翻訳する力です。数学IIの軌跡・領域、数学IIIの不等式の証明まで、同じ翻訳を延々と使います。夏の課題の数問が、そのまま2年半の土台になります。
答えが合っていても、ここで止まったら「まだ理解していない」
- 「つねに正」を最小値の言葉に言い換えられるか
- 判別式が使える場合と使えない場合の違いを説明できるか
- 場合分けの答えを仮定と重ねているか
9.「聞ける相手がいない」だけで止まっているなら
理屈が分かっても、冊子の残りを一人で進めるのは別の話です。分からない1問の前で止まっている時間が、夏休みではいちばんもったいない。
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10.よくある質問
Q. 「すべての \(x\) で成り立つ」問題は、判別式で解いてはいけないのですか?
A. \(x\) がすべての実数を動く場合は判別式で解けます。ただし\(x\) の範囲が限られている場合は使えません。範囲外で負になっても構わないからです。最小値で考えれば、どちらの場合も同じ方法で解けます。
Q. 場合分けした結果は「かつ」でつなぐのですか、「または」ですか?
A. 各場合の中では「かつ」(仮定と重ねる)、最後に場合どうしを合わせるときは「または」です。混同すると答えが逆になるので、数直線で確認してください。
Q. 「つねに \(f(x) \geqq 0\)」のときは何が変わりますか?
A. 最小値の条件が \(\geqq 0\) に変わるだけで、手順は同じです。問題文の不等号をそのまま最小値に写すと考えてください。
Q. 夏休みの残りが少ないのですが、間に合いますか?
A. 間に合います。冊子が途中で止まっている段階のほうが、原因を特定して立て直しやすいです。オンラインなので申し込みからすぐ開始できます。
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